高圧ガス販売店における保安のイロハ 2015-2
5.販売店とは何か
たいへんあいまいな質問で、答えに窮するとは思われるが、高圧ガスの販売店という言葉にこだわって考えるなら、「販売店とは」製造者ではない、と言いたい。販売店は高圧ガスの流通業者である。あるいは充填所や、歴史的には自前で気酸器といわれるプラント、つまり製造設備を持っていた販売店もあるかもしれないが、こと消費者に対峙したとき、そういった事業者も販売店としての仕事はしなければならない。それは流通であり、消費者に直接提供する窓口であるということだ。いかにPL法の施行以来、製造メーカーの責任が重くなったといっても、流通業者がしっかりしていなければ製造物の取扱い説明が消費者に行き届かないこともある。医者は薬を製造するものではないが、医者から薬をもらうとき、用法用量を聞かないでもらった薬など、恐ろしくて服用のしようがない。
高圧ガスが危険なものであるということを認識できれば、それがどれほど注意深く取り扱わなければならないか、どうすれば安全に利用できるかを伝えるのが我々流通させ、消費者の窓口となるところの仕事であるのは明白である。
高圧ガスは前段で紹介したように危険であり、それを入れた容器はそこに高圧ガスの危険がある象徴ともいえる。高圧ガス容器は、ボンベと呼ばれることが多いが、ボンベは高圧ガス容器を示す外来語ではない。
英語ではこれをガスシリンダーと呼び、日本に輸入された当時はこれを直訳して「酸素管」等といわれていた。大正時代の中ごろに、一般市民の生命や財産を奪う大きな事故が発生し、社会問題となって高圧ガスを取り締まる法律が誕生したが、当時終戦を迎えたばかりの第一次世界大戦で脅威をみせつけた、ドイツ軍が史上初めて使用した毒ガス爆弾よろしく、ガスボンベ(独・仏語でガス爆弾の意味)と呼ばれるようになる。
実は当時は高圧ガスという呼称はなかった。圧縮瓦斯あるいは液化瓦斯といわれもののうち、一定の圧力を持ったものが危険とされて取り締まられるようになったのだが、その危険性を伝えるために、あえて高圧ガスの容器はボンベ(=爆弾)と名づけられたようだ。
6.高圧ガス容器は危険
このように、そこにある高圧ガス容器を「ガス爆弾」と呼ぶことで、危険性を確認しあってきたはずだったが、現在高圧ガス容器を見て、それほどの危険性を感じることはなくなったのではないかと思われる。そのせいで高圧ガス容器の長期停滞も多発し、20年も放置された容器が破裂する事故が発生している。これについては、高圧ガス容器の長期停滞を危険といわない販売店のPR不足といわれても仕方がない。確かに容器に残ガスがあれば、少しのことでももったいなく感じて、おいておきたい、ましてや満タンに近いほど残っているガスボンベを返却して、また新たに購入するなどという不経済なことを好まないのが消費者というものかもしれない。しかし、車の運転も同様で、同じ道のりを走るのであれば、慎重を期して1時間かけていくより、急いで50分、あるいは多少荒っぽくても45分で着けば、効率がよく経済的なように感じるものの、そのために信号無視やスピード違反を繰り返し、どこかで事故を起してしまえば1時間でいけるところが、半日かかってもたどり着けない。ましてや多大な賠償や謝罪のための労力が必要になり、きわめて不経済である。
「安全はすべてに優先する」とか「安全第一」というフレーズは、決して経済とのバランスを考えた上で安全に配慮するという意味ではなく、本当に経済はさておいて、安全を優先させるという思想であることを認識しなければならない。
容器の取扱いをぞんざいにしたり、長期停滞させた容器などは、管理を忘れてしまいがちになるが、そういった扱いは、いずれ冒頭に解説した、相撲取り1万人分の重量にも等しい力を制御している高圧ガス容器の機能を失わせることになるおそれもある。そうなれば、容器によってコントロールされてきた高圧のエネルギーはもちろん、純ガスの危険な性質も外部に拡散し、取扱者や周囲の社会にまで被害をおよぼすに違いない。
とはいえ高圧ガス容器は、それそのものが高圧ガスの危険性の存在を警告しているだけでなく、高圧ガスを扱う上で必要不可欠の重要な存在であり、我々は高圧ガス容器なしには、高圧ガスを便利な現代社会で役立てるどころか、移動や保存したりもできないことを確認しておきたい。
7.販売店の役割
すでに答えを言ってしまった後ではあるが、高圧ガス販売店は高圧ガスを消費者に安全に使っていただくという役割を担っている。高圧ガス販売店がこの役割を担当しなければ、多くの消費者が高圧ガスの危険性を知らず、取り扱い方を間違えて事故を起し、高圧ガスの危害をこうむることとなる。
しかし、ときに販売店はうっかりと自分の役割が経済的な流通業者としてのものだけではないかと錯覚することがある。それは、表立って要求されることが、納期であったり、価格であったり、利便であったりすることがほとんどであるからだが、しかし、我々が飛行機に乗るとき、バスやタクシーに乗るときにいちいちまず「安全は大丈夫なんだろうな」と確認してから経済的な要求をするかというと疑わしい。タクシーに「急いでいってくれ」というとき、交通違反で捕まるのも、もちろん遅延を引き起こすわけだが、事故を起こして、急いで行かなければならない目的地ではなく、病院のベッドや、ましてや葬儀場にいくはめになるほどの危険性を冒しても、急いでくれとは言っていないのは当然の話と考えているはずだ。
その道で、その時々の危険性を本当に把握しているのは運転手であるが、運転手が経験のまったくない素人であれば、「急げ」といわれた道中、安全な運行は望めない。経済効率ばかりを追求する消費者に、高圧ガスの危険性を伝えず利用させているということは、そういうことに等しいと考えてよい。
法的には、高圧ガス販売店が販売届けを出しているものとして、やらなければならないことを
1) 販売届けを行って、それに基づいて販売事業を行う
2) 保安業務を管理させる販売主任者の選任
3) 特定消費者へ「周知させる」義務
4) 引渡し先保安台帳の整備
5) 引渡し容器の漏洩確認(漏洩等のない容器の利用)
6) 工業用以外の燃料用液化石油ガスの基準の遵守
7) 一般消費者向け燃料用圧縮天然ガスの基準の遵守
8) 従業者への保安教育
9) 容器授受簿の作成、保管
という9項目であらわしたが、これらのうち、明確に消費者の安全に寄与すると思われるのは3)と5)~7)にすぎない。販売届や保安台帳、容器授受簿を行っても、それだけでは明確に消費者の安全につながらない。販売届けが受理された場合、選任した販売主任者には経験と知識があるのだから、それに基づいて消費者に、高圧ガスの危険性と安全な使用方法について情報提供をする。そしてそれを保安台帳に記録し、まだ必要なところに提供がなされていないところがなくなるまで徹底する。加えて容器管理のデータをもとに調書を発行し、長期停滞容器の返却を要請し、これを根絶するなどして、はじめて消費現場は安全となるのだ。
容器授受簿を記録しても、積み上げて二度と省みることがなければ、またなんのアクションも起さないのであれば、そんなものには何の意味もないといえる。
あわせて各ユーザに、こうした販売店のアクションに呼応して、容器の早期返却や、保安台帳に記録した責任者の異動の連絡をもらう。周知文書をはじめとする保安資料を事業所内で周知し、実際の安全活動につなげていただくといった行動を確約してもらうためにも、保安契約を締結することはきわめて重要な保安活動といえる。
実際、2013年に大阪で起きた、放置容器を解体しようとして飛翔し、1名の死亡被害の出た事故では、最終出荷した販売店に周知の不足や容器管理の不備があったため、その責任を問う声はあるものの、注意深くみてみれば、販売店がそれら法的な要件を満たしていたとしても、それが規則どおりにとどまれば、事故は回避できなかったということがわかっている。